本年3月11日の東日本大震災に見舞われました全ての皆様に改めて心よりお見舞い申し上げます。

 6月末に宮城県の有限会社3D-FACTORYよりあるご相談を受けました。それは大震災で発生した瓦礫とその処置についてのことでした。大量の木材をゴミとして処分するだけでなく、その中から楽器として再生できないか、ゼロからイチを創れないかというもので、具体的には私どもにその木材で三味線を作ってくれないか、そしてその三味線で太鼓や様々な楽器と共に被災地を励ましてくれないかということでした。

 スタッフ全員、震災直後より自分たちの無力さを痛感するばかりでしたが、同時に私どもでも何かお役に立つことが出来ればと思っておりましたので、一も二もなくこの『ZERO-ONE瓦礫再生プロジェクト』に賛同いたしました。最初は7月20日に現地に赴き、初めて被災地と瓦礫の山を見てただ唖然とするばかりで一言の言葉も見つかりませんでした。

 その後、遅々としたプロセスではありましたが、やっと三味線の製作に取り掛かるところまで漕ぎつけました。今後、被災地の瓦礫の中から生まれてゆく三味線の製作過程を皆様にも共に分かち合って頂きたく震災半年の本日より公開致します。

その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7 その8 その9 その10 その11 その12

平成23年9月11日
三味線かとう 代表 加藤金治


その1 7月20日 被災地・瓦礫視察
  









  
3D-FACTORYのスタッフの面々の後について











 使用できそうなものに目印を付けていく











 瓦礫の山の上から


その2 思材

 『ZERO-ONE瓦礫再生プロジェクト』の主旨に・・・ここでは災害ででた瓦礫の中の木材や素材を、ゴミや廃材等とはいわず想い出や人の復興の思いが入った材料として、「思材」と表現しております。・・・とあるように以後これらの木材の事を『思材』と記します。















  『3DFACTORY』の左から千葉秀さん、石田陽祐さん、千葉響さんです。











  膨大な量の瓦礫の思材ですが、三味線に使用できるものはごく僅かです。

 その中でも床柱などに使われているかもしれない紫檀材や、欅材などに照準を絞りました。

 

  










瓦礫の中から選び出した思材を『族ーYAKARA』の
リーダー三浦公規さんがカットします。

 欅の臼、三味線の胴に使えるかな? 東京に持ち帰って店の前に。











 

  




 床柱に使用されていた思材はブビンガというアフリカ原産の固い木。お稽古三味線の棹に使用する花梨によく似ています。


 

 

 

玄関の床にでも使われていたか、或いはお洒落な居酒屋さんのテーブルにでも使われていたのか、表面はきれいに化粧されていた思材、欅の厚板。


その3 製作開始

 『ZERO-ONE瓦礫再生プロジェクト』の三味線製作はエレクトリック三味線『夢絃21』を作ってくれとの要請でした。従って三味線かとうと永年タッグを組んで新しいモノづくりをしてきた東邦楽器製作所と共に製作いたします。

 東邦楽器製作所は、22年前共同製作でエレクトリック三味線を開発したところで、熟練職人と常に新鮮な開発力を併せ持つ三味線工房です。












このブビンガで棹と糸巻を、欅で胴を製作する事に決定しました。

 

 

 

 

 

9月 いよいよ三味線を作るために断裁が始まります。棹部分の最初のカットです。


その4  三味線の材料 

 現代、三味線の棹の材料は主に紅木、紫檀、花梨を使用します。そして胴は花梨材が殆んどです。
「ブビンガ」という材料は基本的に棹の材料には使用しません。胴を作ろうとしている「欅」も昔は有りましたが現在は皆無です。これらの材料で三味線を作ることはないと言ってよいでしょう。

 但し、今回の目的は『被災地での思材、つまり瓦礫の素材で三味線を作ること』です。販売を目的にしたものではありません。つまり、あくまでも思材を楽器にすることで、0(ゼロ)から1(イチ)を創ろうというのが製作の目的なのです。かといって、安易に国産の木材を使用して後で曲がったり反ったりして、楽器として使いものにならないのでは意味がありません。















欅の思材で全て胴を作ります。

















 天神部分になります。


その5  木取り

 

三味線の棹は5つの部分に分けて製作します。

上から、天神、上棹、中棹、中具、下棹と木取りました。

天神と上棹、下棹と中具はそれぞれ膠(にかわ) で接着します。








これからホゾを合わせて3本の棹を精密につなぎます。












その6  中具付け


















































ホゾ合わせ
































棹の丸め













その7  天神接合





 天神にやすりを入れて丸めます。










 





 天神と上棹を接着する前に鑿を入れて微調整をします。









 





 上棹と天神
















 天神接着 天神と上棹を接着します。
































 上棹部分
















  こうして1丁の棹をつなぎ合わせます。

















  砥石で磨きます。















その8  完成

 

磨きの後、いくつもの工程を経て、写真のように津軽三味線4丁が完成しました。










仕上がりは3丁をエレキ仕込みにし、1丁は生の三味線に仕上げました。










欅の胴











 

 

 

 

 

 先ず1丁の皮張りをしました。







入念に音出しチェックをしました。





ブビンガと欅で作った三味線の音は何とも言えない抜けの良い音です。何しろ3月11日のあの大震災から発生した大量の瓦礫の中から、復興の思いを込めて運び込まれた『思材』でした。

三味線に生まれ変わったこの『思材』が被災地に戻ってどのように受け止められるのか、またどのような光彩を放つことが出来るのか、それは想像もつきません。

 

 

 


その9 11月16日 発送
取り急ぎ、1丁を『ZERO-ONE瓦礫再生プロジェクト』に向けて発送しました。

この大震災で犠牲になられた数えきれない方たちのご冥福をお祈りするとともに、被災者の皆様のご健康と被災地の一日も早い復興を願うばかりです。


その10 全国各地への巡演
4丁の三味線のうち、3丁はエレキ三味線として被災地宮城に戻り、太鼓グループ閃雷らの瓦礫で作った太鼓と共にみちのく各地を中心に巡演を続けています。


その11 朝ズバ!出演
2012年2月、TBSテレビ「みのもんたの朝ズバ!」で放送されました。


その12 愛称「ガッくん!」
三味線かとうに残した生(ナマ)の三味線の愛称を「がれきの、ガッツある、学ぶ」の意味を込めて「ガッくん!」と命名しました。大震災を忘れないため、いつも店内に展示しております。

有限会社3D-FACTORY (提唱社・プロジェクト事務局)
ZERO-ONE of 東日本大震災関連事業