邦楽ジャーナル 2008年10月号

そこにドラマあり
夢託す楽器店主 「七夜連続三味線ライブ」開催!


 三味線の一週間連続ライブが8月25〜31日に開かれ、若手の三味線ロックバンドから大御所まで個性豊かな面々が毎夜入れ替わり登場した。主催したのは、下町のかおり残る東京荒川区町屋の三味線店「三味線かとう」だ。ありそうでない連続ライブをいち三味線店がなぜ開けたのか、店主・加藤金治さんとは。

 店を開店したのは20年前。開店してすぐに「ちとしゃん亭」を始めた。従業員、家族総出で店内のものを倉庫に移して、そこをライブ会場とし、三味線だけでなく箏、尺八、太鼓、琵琶、ギター、サックス、アコーディオン、タブラ、チャンゴなどさまざまな音を響かせた。

 出演者はプロ奏者だけでなく、地元の三味線の師匠や愛好家、はたまた従業員が三味線でジャズバンドに参加したりと飛び入り歓迎だ。音楽だけでなく獅子舞、鳴物入り紙芝居、大道芸まで"音"を中心にみんなで楽しもうという"音楽寄席"だ。「のれん分けした店ではないので、少しでも店を知ってもらいたくて始めました」というこの「ちとしゃん亭」を年に3、4回開いてきた。観客は地元の人が中心で、都電が走る店の外まで鈴なり状態になる。

 一方、楽器の開発にも力を入れてきた。1989年、国本武春がキーボード、ギターと共に、マイクを通して三味線を弾き語っていた音が美しくなく、なんとかしたいと開発を始めたのがエレキ三味線だ。続いてサイレント三味線、すべらない糸巻きを世に送り出した。

 「ちとしゃん亭」20周年記念として開かれた今回の連続ライブは、地元の人々と音楽することの楽しさを共有し、奏者の要望に答えて楽器を開発してきたからこそ開催できたといえるだろう。そして、10年前に開いた一週間連続ライブのときも今回も、その時代に輝きはじめた若手奏者をディレクションする加藤さんの姿勢は変わらない。

 そんな加藤さんが今、改めて思うことがある。
 「なぜ三味線の音楽評がないのだろう。命をかけてきたものに対して客観的な目、耳が必要です」

 三味線店を経営する前は、役者として舞台に立ち、「世仁下乃一座(よにげのいちざ)」の一員として紀伊國屋演劇賞を受賞したことがある加藤さん白身がそういう目にさらされてきたからこそ、その必要性を強く感じると言う。

 300の客席は毎夜埋まるも、前回に続き赤字だ。楽器業界全般が不況のなか、そこまでしてなぜするのか?
「閉塞状況を嘆くだけでなく、元気だぞと自分でも確認したいからかな。何よりもお客さんが喜んでくれるからです」

記事 織田麻有佐