今、シャミセンがイカシている

 突然ですが、皆さんは“三味線”に、どんなイメージをお持ちでしょうか?芸者、長唄、ちん・とん・しやん……そんな感じじゃないでしょうか?
 ところがどっこい。日本の歌と言っても、ポッブスから演歌や民謡までいろいろあるように、三味線にだって、いろいろあるのだ。
 それを教えてくれたのは、ひょんなことから耳にした「TSUGARU MODERN」という1枚のCD。演奏者は、木下伸市、渋谷和生、上妻宏光、進藤正太郎の4人。いずれも、弘前で毎年開催される津軽三味線全国大会で、2年以上連続優勝した経験を持つ“津軽三味線の覇者”だ。
 このCDは、そんな四人が共演したライブを収録した自主制作盤なのだが、これが“目からウロコ”のカッコ良さ。あるときは激しく骨太に、またあるときは繊細に響く津軽三味線の音色と、その細やかな表現力に、私などは普段聞き慣れていないせいもあって「すごいっ!」と素直に感動した。
 特に、4人が即興で共演し、まさに息詰まる三味線バトルを繰り広げる7曲目の「じょんから乱れ弾き」は、追力満点。そこらのロックバンドのセッションより、よほど刺激的で、イカしている。
 また、多くのロックやジヤズミュージシャンと共演し、自らもユニットを持つ木下さんと上妻さんが、ピアノとパーカッションをバックに、エレクトリック三味線を使って、アドリブ演奏を展開する2曲目の「津軽協奏曲U」は、さながらフリージャズの味わい。縦横無尽に紡がれる三味線の音色を聞いていると「三味線って、意外と洋楽器ともマッチするのね」とか「ホントに三本しか弦がないんだよねぇ?!」なんてことまで考えたりして。
 奏者も、渋みが効いたオジサンばかりかと思いきや、ジャケット写真とプロフィールを見ると、思いのほか若い。特に長めの髪とシックな洋服がよく似合う上妻さんは、ビジュアル系のルックス。追っかけもいそうな雰囲気だ。
 先日、あるライブ店で、この4人の中ではリーダー格の木下さんと、若手ナンバー1と言われる和太鼓奏者・茂戸藤浩司さんの生演奏を間近で聞く機会に恵まれたのだが、ナマで聞くと、これがまたスゴイ追力!
 何も知らずについてきた「邦楽なんて全然興味ない」と言っていた友だちも大感激で、「明日、早速レコード屋でCDを買うわ」と鼻息も荒く帰っていった。
 その木下さんと上妻ざんが三味線バトルを行うライブが、8月に開催される。共演は和太鼓の茂戸藤さん。企画したのは、「TSUGARU MODERN」に収録された津軽三味線の覇者4人のバトル公演を企画し、CDも制作した「三味線かとう」。下町情緒溢れる都電荒川線沿いにある、三味線販売修理の専門店だ。
 ここの店主・加藤金治さんは、三味線の皮張り職人をしながら、一時はアマチュア劇団で芝居もやっていた人物。劇団の活動が本格化してきたのを機に、本業一本に専念し、89年3月に現在の荒川区東尾久に「三味線かとう」を構えた。
その3ヵ月後に、知り合いの三味線奏者に声を掛け、お店を使って始めた無料のミニライブが「ちとしやん亭」だ。舞台は、普段は加藤さんが皮張り作業をしている畳敷きの小上がり。店内の品物を全部隣の車庫に移し、じゅうたんと座布団を引いた店内の残りの十畳ほどのスペースが桟敷席だ。
 「三味線は、昔は、あちこちの路地裏から聞こえてきたもの。構えてやるもんじゃないんです。この業界の閉息的な状況をなんとか打破したいという願いもあって、通りがかりの人にも聞いてもらおうと思ったんです」と話す加藤さん。
 店の外にも縁台を二つ置き、ガラス戸越しに外からも見えるようにしたところ、三味線の昔色に惹かれて、店の前には黒山の人だかり。浪曲の国本武春さんをはじめとする豪華なゲストの出演もあり、毎回、100名近いお客さんが集まったという。
 この「ちとしゃん亭」は、30回を区切りに現在お休み中だが、今回の木下・上妻バトルは、その拡大版。興味のある方は、ぜひとも足を運んで、大追力の三味線バトル+和太鼓を、ナマで味わってみてほしい。「ああ、日本人でよかった」と思わないまでも、きっとトリハダが立つような興奮を覚えるのではないかと思う。
 加藤金治さんも会場にいると思うので、見かけたら声を掛けてみては?よく通る良い声(さすがは元演劇人)で、にこやかに挨拶してくれると思う。
 それにしても、日本の世の中、いったい、いつからこんなに洋楽だらけになってしまったのだろう?いまや、三味線よりギターの方がよーっぽどポピュラーな存在なのだから、不思議と言えば不思議な話だ。あなたも、この機会に、ぜひとも邦楽の魅力をご堪能あれ!

(文・岡崎香)
月刊 EL Dorado 2000年7月号